超雑読と趣味と

乱数の女神の子らしく、誇らしくありなさい。

【戦争の災禍は容赦なし】北杜夫『楡家の人びと 第三部』

だんだんと秋色が深くなってきているな。

エアコンが涼しくなりつつあるね。

うん。

 

 

 

 

北杜夫『楡家の人びと 第三部』

楡家の人びと 第三部
北杜夫

新潮社 2011年07月05日

by ヨメレバ

 

 

 

 

戦争はすべてを消し去る

この理不尽な出来事は

日本を完膚なきまでに痛めつけ

その復興までに数多くの時間を費やさせました。

 

無論、楡家とてそれは例外ではありませんでした。

戦争の色が濃くなっていくにつれて

貴重な病院の人員も戦争に召集され

また数を減らしていくのです。

 

その魔の手は楡家の峻一にもかかり、

さらに年齢高め、自称病人といった

通常だったら召集には耐えうらなかった面々までも

容赦なく召集されたのです…

 

感想

戦争には、どんな権力でも

あっけなく無になるものなんだよ…

 

それを痛感させられるのがこの壮絶というか

圧巻というか、感想を書くにも苦労しそうな

この全三部作という大作でありました。

 

この最後の作品は目も当てられない描写があります。

穿った視点で見てしまうと

この描写はフラグでは…という場面が存在します。

いや、なんとなく嫌な予感がしたのですよ。

 

その場面は誰のどの場面かは私からは

明言は避けさせていただきます。

読む楽しみ、とかではなくその運命が決定したのと

そのあとの関係者の描写がさらに印象的だから。

 

ええ、その後がもっと苛烈なんですよ。

それはその人物にとってはありとあらゆる

アイデンティティーも奪い去ったも同然なのです。

 

今もそうなのですがある種の存在というのは

その部分は「その人の看板」ともいえるものなのです。

残念ながら私はそうではありませんが。

 

そのアイデンティティーを失った描写が

あまりにも残酷すぎてね。

運命がその人を見放した感が強いんですよ。

 

そしてぬくぬくと嘘でごまかして

いい道(?)をたどった人間にも

ついぞ不可避の運命が突き付けられます。

あの米国ですね。

 

こいつですら召集の憂き目を見るのです。

そしてご想像通りの展開を迎えます。

 

それは「楡家」だったから通用した欺瞞。

地獄と称されても過言でない軍隊に

そんなものは通用しないですよね。

 

先に召集された熊五郎とともに

彼は中国大陸の最強に苛烈な環境へと

否応なしに巻き込まれていきます。

 

そしてついぞ、終戦が訪れるのではありますが…

 

おわりに

私は別所でこの物語全編で存在を示してきた

ある人を嫌いと明言しているので

正直ラストのある描写を見ても嫌いなままでした。

見方としては異端ですね、ひねくれものだとは自負しています…

 

確かにそれを抱くのは大いに結構ですよ。

そして自分の身内を打ち捨てるのも結構。

だけれどもその「栄華」はその期待していないものの

尽力もあったということ。

 

それに目を背けているからこそ、嫌いなのですよ。

あなたに何が残った?この戦争で。

そこに目を背けるなよ。

 

だけれどもその後があるのはわかる気はするのですよ。

じゃなきゃ、実話をモデルにしたこの本、出てこないもん。