超雑読と趣味と

乱数の女神の子らしく、誇らしくありなさい。

有吉玉青「ぼくたちはきっとすごい大人になる」

おとねこがねております。

人の座椅子を我が物顔で占領して。

私のデカ尻の置き所は、ない。

 

 

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有吉玉青「ぼくたちはきっとすごい大人になる」

ぼくたちはきっとすごい大人になる
有吉玉青

光文社 2009年01月 

by ヨメレバ

 

 

 

 

 揺れ動く、気持ち

この本はユニークな作品集かもしれませんね。

なぜならば、登場する人物のほとんどは小学生、なおかつ高学年だから。

子どもの体からだんだんと大人へと変わっていく…

その何とも言えないもどかしさがこちらにも、伝わってくるのです。

 

そして彼(彼女)らは思っているほどに物事を見つめているのです。

大人が決していいものではない、ということも。

 

感想

こういった突き刺さる作品を読むと、読書というのは楽しいものだと

つくづく感じてしまいます。扱われているテーマが多感な時期の子どもたちというのも

ユニークだな、とは思っていたのですが

扱われる内容に関しても大人でも答えの出せないものがあることに

驚かされました。

 

その作品の最たるものが「一心同体」という友達が少ない女の子と

友達になったお話でしょう。

このちょっとお高く留まった(?)女の子はある秘密を抱えています。

それは主人公の女の子が「どうして家に行かせてくれないの?」という

疑問からより一層深いものとなるのです。

 

その答えは言ってしまうとちょっと物語の楽しさをスポイルしてしまうでしょうから

あえては言わないことにしたいと思います。

だけれどもこの真相に絡む部分は昨今あった出来事からしても

なかなか理解されがたいですし、それにかかわる人も報われないということで

それが解決しない一因ともいえるでしょう。

 

私にもこれが少し絡む友人がいるのでよくわかります。

でも彼女は精一杯の頑張りで、人並みの生活を手に入れました。

でも、大体において、それすらもかなわないのです。「少々の違い」だけで。

 

そして、それをさらけ出すことが危険で、時に醜い人間の餌食になるからこそ

ひた隠しにしたのでしょう。うん、そうしたお嬢さんの気持ち、わかるんだよな…

 

あとはいわゆるプラトニックな「禁じられた恋」のお話もあります。

「ママンの恋人」がそれですね。

ただ、禁じられた恋、とは言えどもそこに悲壮感、ドロドロはなぜかありません。

なぜそう感じるかは物語の終盤に明らかになりますよ。

 

これも主人公の子は母親がどのようなことをしているのかを理解しているのです。

そう、本当はその恋愛はいくらでも合法的に離婚という手続きさえとれば

あっけなくかなえられたわけです。

このおじさまとは男友達扱いで、たとい云々をされたところで

証拠すら出ない代物ですし。

 

でも、母にはできない事情がありました。

ええ、それではどうしたって、できないんですよね。

そして主人公の女の子がそれを知ったときに心はだんだんと

「本来あるべき場所」へ戻っていくのですよ。

 

これも複雑な事情が絡むお話です。

大人でも正解の解答は出ないし、出せないもの。

でも彼女は精一杯に理解して、前へと踏み出したのです。

 

おわりに

子どもでもない、大人でもない中間というもどかしさ。

確かにまだまだ、大人と比すれば知らないことはあるでしょう。

でも、思ったよりも子どもは私たちのことをしっかりとみているし

たとえ複雑な事柄があっても理解するものなのです。

「大人の事情」でごまかそうとしてもね。

 

その純真さを本当は失ってはいけないけれども

失ってしまう時はいつかきてしまうでしょう、この本の子たちにも。

でもね、失うかもしれないけれども心がけはできるよね。

その気持ちがまっすぐである、ということは、ね。

 

読んでいてなんか胸がチクチクする作品でしたね。

 

おしまい。